たとえばの明日に花束を

ホントの気持ち




「―――俺は……、ずっと天音のことが好きだった。物心ついた時から」


志紀はポツポツ話し始めた。


「だけど天音はいつも俺の気持ちに気付いてくれなくて、苦しかった。
でもやっぱり好きだった。…だから二人きりになる口実が欲しくて美術部に入った」

「………うん」

「それで隠れて天音を描いて、告白しようと決めた。その時にはもう…俺が破った手紙を置いてた」



志紀はうつむいてしまった。




「だけど事故に遭った。それで、苦しすぎるこの想いに踏ん切りつける機会と思って…記憶を失った"フリ"をしたんだ」



「……志紀はバカだね」


もっと、"好きだよ"とか気のきいた言葉があるのに第一声はそれだった。




「気付かなくてごめんね。


でもさ、志紀は大馬鹿だよ。私本気で悩んで泣いたんだから」

「……それは…ゴメン。」




「大好き、志紀」



私は志紀に抱きついて泣いた。志紀も抱きしめ返してくれた。




こうして長い間分からなかったお互いの気持ちは


"記憶喪失のフリ"で繋がったのだ。
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