3つのKiss
家に帰るとゴロゴロゴロ…と、
雷の音が聞こえた。


そして次の瞬間、ザザーーッと大雨。
嵐のように風がビュウウッと音を立てている。


おまけに窓までがガタガタと揺れている。
テレビを見ても台風じゃないらしいけど…


ただでさえ気分が浮かないってのに…
まぁ、晴れ晴れとしてたら逆になんか嫌だけど。


そのとき、ピンポーンとチャイムが鳴った。
こんな嵐の中?


玄関に向かって、ドアを開ける。
そして俺の目の前には


「十雅、話があるの」


ビショ濡れで、光の宿っていない瞳で俺を見つめる
紗弓の姿があった。


「さ…紗弓、服びしょびしょだぜ?シャワー浴びてく?」


「ん…いらない。どうせ帰りも濡れるんだから…」


そう言って、紗弓は冷ややかに微笑んだ。
その笑顔に、ぞっとしてしまった。
嫌な予感が…したんだ。


「2階の部屋で待ってて。飲み物取ってくる」


「うん…お邪魔します」


サンダルを脱いで、階段をゆっくりと登って行く。

俺は麦茶とバスタオルを持って
すぐに紗弓の後を追った。


嫌な予感は
拭いきれないまま。


部屋に入ると、
紗弓は落ち着かない様子で行儀良く床に座っていた。

まるで、付き合い始めてから
初めて部屋に入ったときのように。


『何度も来てるのに何か緊張する~っ』


『俺に襲われる可能性があるから?』(笑)


『ちっ、違う!ただ、意識しちゃって…えへへ…』


一年前の事が回想される。


俺は紗弓の前に座ると、タオルを差し出して


「髪くらい拭けよ。そこにドライヤーもあるしな」


「ありがと…」


紗弓は暗い表情のまま、
受け取ったタオルで髪を拭き始める。

そんな仕草が、色っぽく感じてしまう。


「…で、どうしたんだよ」


はっと、そんな場合じゃないと思い出して
紗弓に話しかけながら彼女の前に麦茶の注がれたグラスを置いた。


そして自分のグラスを握ったまま
紗弓の斜め向かいに座り直した。





< 14 / 26 >

この作品をシェア

pagetop