3つのKiss
「…ちょっと、ね」


紗弓は珍しく、俺を見ていない。
寂しく感じるのは気のせいだろうか。


「紗弓…?」


優しく名前を呼ぶ。

けれど、紗弓は俯いてから
タオルを硬く握り締めているだけだった。


紗弓…言ってくれねぇと俺…
どうしたらいいか分かんないじゃねぇか。


そんな苛立ちが
俺の中を駆け抜けて行くのがわかった。


雨が降り注ぐ音しか聞こえない沈黙の中、
紗弓は口を開いた。


「十雅は…私の事、好き?」


急に振られた質問。
紗弓は真剣な瞳で、俺を静かに見つめていた。


「好きだよ」


「………そう」


素直な気持ちを言っただけなのに
紗弓は難しい顔をして考え込んでしまった。


何だよ。何なんだよ紗弓。


不安になるだろ?


微かに、紗弓の唇が動いた。


イヤ…。
嫌だよ、紗弓。
俺、聞きたくない…


俺はもう、目も耳も…全てを塞ぎたくなった。


「ゴメン。十雅、私…―――」


「止めてくれ、紗弓。もう、わかったから。

…お前が言いたい事…わかったから……」


俺は自分の言葉で、紗弓の言葉をさえぎった。
それ以上聞くと、俺…狂ってしまいそうだったから。

情けねぇけど、涙が出てきそうだったから…


「十雅!なんで言わせてくれないの?!」


紗弓の顔を覗き見る。

凄く辛そうで、悲しそうな表情…。

それを見てられなくて、
俺は視線を逸らして押し黙った。


「十雅…」


「…」


悲しそうな声色。
そんなふうに、俺を呼ぶなよ…。






< 15 / 26 >

この作品をシェア

pagetop