3つのKiss
俺は、もう殆どない麦茶のグラスを持ったまま
何も言えずに押し黙ったままだった。


「十雅っ!!」


紗弓は床をバンッと叩いて
俺ににじり寄る。

こんな自己主張する紗弓、
久々に見た…


この先の事を、いろいろと考えてしまう。
考えたくないのに、考えてしまうんだ。


「紗弓、どうして…そう思うわけ?」


出来るだけ冷静に、落ち着いて聞く。


それを聞いた紗弓は、一度間をあけてから


「…もう十雅の彼女でいたくない…の。お願い…」


そんな答えじゃ納得いくかよ…
こんなの、答えのうちに入らない…。


俺はグラスの麦茶を一気に飲み干した。
だからって落ち着く事も出来なくて、


「お願いなんて言われてはい、そうですか。
なんて言えるかよっ!」


床にグラスを思いっきり叩きつけて紗弓を睨んだ。
くそ…落ち着けよ、俺。


紗弓はビクッと身体を揺らした。
そして怯えた目をして、その綺麗な瞳から一筋の涙が流れる…


床に叩きつけられたグラスは割れることはなく、
手を離すとコロコロと床を転がった。


こんな表情させたかったんじゃない。
泣かせたかったんじゃない…


もう、紗弓の方を見ることなんて
出来ない。


「十、雅…」


震えた声で、俺の名を呼ぶ。
紗弓の顔なんて見れない。


「ごめんな、紗弓…。俺、どうかしてる…」


「…十雅、別れてくれる…?」


いいわけない。
そんなの…そん、なの…――


「俺達、もう戻れないの…?」


往生際が悪いと思う。
けれど、聞かずにはいられなかったんだ。


「うん…」


紗弓は小さく頷いた。


俺はただただ、拳を握り締める事しか出来なかった。
悔しくて…苦しくて。






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