3つのKiss
「勝手だな…。深い理由もなく、別れろなんて…」


紗弓の方を見ると
何も宿っていない瞳と視線が合ってしまった。


「ゴメンね…」


苦しそうな表情の紗弓。


「もう、いいよ」


もういい。
ウンザリだ。


「好きだったのは結局俺だけだったんだよな?

そーゆー事なんだろ?紗弓」


もう戻れないんなら、
この怒りやを直接紗弓にぶつけてしまおうかとか…

そんな黒い感情が俺の中を駆け巡る。
それを堪えるのでもう俺は精一杯だ。


「…そんな事ないよ」


「だったら何なんだよ、紗弓っ!!」


ちょっとしたことで、怒鳴ってしまう。
家族が今は留守で良かった。

居たら、俺達が別れるだの
そんな問題じゃないだろう。


「…お願い。深くは聞かないで…
私の事、どれだけ恨んだって憎んだってかまわない。
だから…だから――――…」


「…帰れよ。もう、いいから…帰ってくれ」


これ以上話したって意味はない。

どうにも解決なんてしそうにないし、
このままじゃお互いを傷つけ合うだけのような気がした。


「…分かった、帰るね」


スクッと紗弓は立ち上がると
俺の部屋にあった私物を自分のバックに詰め込み始めた。


俺の部屋から、紗弓の物が一つ一つ
なくなってゆく。

それを俺は、ただただ見ている事しか出来なかった。


「これ、十雅の…。返すね」


そう言って俺の前に差し出された
少し濡れた紙袋。


見ると、俺の雑誌やらTシャツやらが入っていた。
他にもあるだろうけど。


俺が黙って見つめていると、紗弓は立ち上がり、


「じゃあ、帰るから…」


それだけ言って、
俺の返事も待たずに部屋を出て行った。






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