shining☆moon‐私の王子様‐
「…」
ヴィンセントは私の言葉に押されたように黙り込み下を向いた。
私は息を飲みながら、俯(うつむ)くヴィンセントをただ見ていた。
するとヴィンセントは小さく笑った。
「…な、何が可笑しいのよ」
「いえいえ。ただ良いことを思い付いたのでつい」
「……良いこと…」
ヴィンセントにとって良いこと…。
背中に何か冷たいものが首もとから撫でるようにじわじわと降りてくるのを感じる。
そして上から血の気が引いたような気もした。
私は聞き返した。
「良いことって……?」
「聞きたいですか?」
「…っ…」
「では、言いましょう」
緊張が渦を巻く、この空気。
皆が苦しみながら必死に耳を傾けて。
ばかばかしい。
こんな事に静まり返っているこの時間がとても勿体なく感じる。
一刻もはやく“フレンもどき”の中からフレンを取り戻したい、それだけなのに…。
フレンを助けちゃいけないっていうの!?
それともフレンを助けられるいい方法?
だけど……。
もしかしたらフレンを殺せとまた言われる?
それとも、この“フレンもどき”はヴィンセントの命令は聞くから自分で自分を剣で突き刺す…とか?
嘘…だよね。
いくらなんでも。
――フレンの事じゃない。
私の事だった。
悪い予感が的中してしまった。
「…ユリア・アリスレパード様」
真剣な眼差しをして口を開いた。
ヴィンセントのその表情に私の思考は麻痺してしまい、ただヴィンセントを見ることしかできない。
そしてヴィンセントはあり得ないことを言う。
「…俺とキスして頂けるなら…フレンをもとに戻しましょう」
私は知らなかった。
その時フレンの理性はほんの少しもとに戻っていた事を。
どうして気づけなかったのかな。
…そうしていたらみんなは幸せだったのかな…。