-恋花火-
一、 薄紅色


---わたしは今、恋をしている。


【薄紅色 うすべにいろ】





その気持ちに気付いたのは、人生で最低最悪な日だった。

大好きだった母が亡くなった日。

15歳だった私は、ただ茫然と立ち尽くしていた。

何が起こったの?

これは現実なの?

どうしてこんなことに?

黒い服を着た参列者が、しんみりとした表情で帰って行く。


「結芽、中に入ってなさい」


静かに雪が降っていた。

祖母が私を呼んだけれど、灰色に曇った空を見上げたまま動かなかった。

ふわふわと降ってくる雪が、頬に当たっては溶けていく。

大人たちは、そんな私の様子を見て“かわいそうに”と言った。

……私も消えてなくなりたい。

そう思ったとき、雪のきしむ音が聞こえた。

私の前に立っていたのは、幼なじみの“しょうちゃん”だった。


「…なんで泣かないんだよ」


なんでって…

そんなこと言われても…


「悲しいなら泣けよ」


そんな風に言われて初めて、自分が泣いていないことに気付いた。

泣くことを強要されてるみたいで変な感じがしたけど、次の瞬間。

私の頬を温かい涙が伝った。

何かのスイッチが入ったみたいに。

わんわん泣いて、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった。

そんな私の肩を抱いて、じっと付き合ってくれたのは祥ちゃんだった。



鴻池 祥太郎。

わたしの好きな人。


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