-恋花火-
祥ちゃんはチラリと私を見た。

そして言う。


「桜」


たぶん、着物の柄を見て言ったんだ。

桜の絵が描かれた黒いかんざし。


「似合うかな?」

「…さぁ」


自分で“桜”を推したくせに、超超超そっけない感じ。

でも、いいや。


「じゃあこっちにするー」

「…どっちでもしてくれ。お前がいると仕事の邪魔だから」

「なんですと!?」


祥ちゃんは迷惑かもしれないけど、そんな態度が余計に夢中にさせる。

絶対ふりむかせてみせる!って。

もう何年も“スキスキ攻撃”をしかけているのに、全然効き目なし。

どうしたら振り向いてくれる?

女を磨けば磨くほど、なぜか他の男の子からアプローチされて、祥ちゃんが遠くなる。


「領収書は?」

「いらなーい」

「あ、そ」


無駄遣いがバレたら、それこそ大女将から怒られるから…。

小さな紙袋を、祥ちゃんが私の手に乗せた。

少し触れ合った手。

それだけでドキドキする。

どうでもいい男の子なんて、手を繋ごうが、肩を抱かれようが何も思わない。

祥ちゃんだけから発せられる何かに、私は取りつかれてしまってる。

私の頬は薄紅に染まる。
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