-恋花火-
相変わらずの祥ちゃんだけど、本当はやさしいことを私は知ってる。
だからこそ好きなんだ。
「若女将、こうのやの若旦那がいらっしゃってますよ」
もう勤めて長い、初老の番頭さんがフロントから顔を出して言った。
かやのちゃんはコソコソと言う。
「噂をすれば、ね」
かやのちゃんに手を振って別れた後、はやる気持ちを押さえながら坪庭の見える廊下を歩く。
月之屋の奥には、月島家の居住スペースもある。
裏玄関に行くと、色とりどりの反物を持った祥ちゃんが立っていた。
今日は濃紺の和装。
「営業?」
「見ての通りな」
「なんだ。会いに来てくれたのかと思ったよー」
「そんなにヒマじゃない」
あっさりとかわされた。
つまんないのー。
客間に上がった祥ちゃんは、まるで茶道の先生みたいにキレイに座る。
さっと広げられた生地。
「ねぇ、この色きれいだね」
私が指をさす。
「そう言うと思ってた」
と祥ちゃん。
どうしてわかったの?
そんなセリフがすぐに口に出てこなかったのは、ちょっとドキっとしたから。
「…夕焼けになる直前の空の色みたい。ちょっと懐かしい感じがする」
「紅掛空色だよ」
「べにかけそらいろ?」
子供の頃、みんなと遊んで、帰るのが名残惜しいときの空の色だ。
祥ちゃんともたくさん遊んだよね?
「オレも思い出したよ、空の色」
そう言って、祥ちゃんは少し懐かしそうに微笑んだ。
だからこそ好きなんだ。
「若女将、こうのやの若旦那がいらっしゃってますよ」
もう勤めて長い、初老の番頭さんがフロントから顔を出して言った。
かやのちゃんはコソコソと言う。
「噂をすれば、ね」
かやのちゃんに手を振って別れた後、はやる気持ちを押さえながら坪庭の見える廊下を歩く。
月之屋の奥には、月島家の居住スペースもある。
裏玄関に行くと、色とりどりの反物を持った祥ちゃんが立っていた。
今日は濃紺の和装。
「営業?」
「見ての通りな」
「なんだ。会いに来てくれたのかと思ったよー」
「そんなにヒマじゃない」
あっさりとかわされた。
つまんないのー。
客間に上がった祥ちゃんは、まるで茶道の先生みたいにキレイに座る。
さっと広げられた生地。
「ねぇ、この色きれいだね」
私が指をさす。
「そう言うと思ってた」
と祥ちゃん。
どうしてわかったの?
そんなセリフがすぐに口に出てこなかったのは、ちょっとドキっとしたから。
「…夕焼けになる直前の空の色みたい。ちょっと懐かしい感じがする」
「紅掛空色だよ」
「べにかけそらいろ?」
子供の頃、みんなと遊んで、帰るのが名残惜しいときの空の色だ。
祥ちゃんともたくさん遊んだよね?
「オレも思い出したよ、空の色」
そう言って、祥ちゃんは少し懐かしそうに微笑んだ。