-恋花火-
ドキドキと心臓がうるさいくらいに高鳴って、この後の祥ちゃんのセリフを期待した。

もしかして、、、

愛の告白!?

コクンと唾を飲み込んだ。

そして、祥ちゃんが口を開く。


「…着崩れてる」


予想していたセリフとは全然ちがっていて、聞き間違いかと思ったくらいだ。

改めて自分の姿を見てみると、着物の裾が見事にズレてしまっていた。


「わぁあぁ!?」


これから取材の打ち合わせだっていうのに!!

大女将は、口を酸っぱくして言う。


“帯はしっかりと絞めなさい”


けれど、息苦しいから、いつも適度に緩くしめる。

もちろん着崩れない程度に。

今日に限って……


「結芽、立ちな」

「ほへ!?」


さっき力強く引かれて座ったのに、今度は立たされる。

んなっ…!?!?

気付いたときには帯はスルリと音を立てて、畳の上に落ちていた。

しょ、祥ちゃん!?

なんてダイタンなっっ!!

あなたのためにヴァージンを守って来たけれど、そんな急に…


「おい、しっかり立ってろって」

「……え、あれ?」


祥ちゃんは私の後ろにまわり、手慣れた様子で着物の襟や裾を整えていく。

そして、帯を当てがってから数秒後。

力任せか、親の敵か、鬼退治か?

物凄い力で締めた。
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