恋人 × 交換!? 【完】
(……泣いてるの?奏……)
いつもの大きい背中が、やけに頼りなさげで、儚げで。
小刻みに震える毛先は、風のせいか、涙を押し殺して力んでるせいか。
ともかく、雨に濡れた子犬みたいに思えた私は、薄いガラスみたいにうんともろい後ろ姿へ、引き寄せられるように身体を起こした。
だけど――。
「くんな」
「えっ……?」
奏は、さらに距離をとった。
「こっち、くんな……。くんなよ……絶対……頼むから……」
声が、かすれて濡れてる。
あの奏が、涙を流してる。
あんなに俺様だった口調が、見る影もないようなか細い声で。
ひたすら「くんな」といいながら、私に弱さを見せまいとしてる。
(奏……)
気がつけば、彼に近づきながら、私も静かに泣いていた。