ひとりぼっちの勇者たち
それから数十分かけて、月子ちゃんに言われた通りの文章を、指定のメールアドレスに送信した。
宛先はものすごいシンプルなもので、おそらくこれが共用の携帯電話なのだろう。
単純過ぎるアドレスだと迷惑メール等が来ないかとちょっと心配してみたけど、口には出さなかった。
宛先とは別にもうひとつのメールアドレスにも送ってほしいと言われたので、言われた通りにした。
こちらは意外と凝ったアドレスだった。
「あの、これ、は…?」
興味本位でおずおずと口にしてみたら、月子ちゃんは少し間を空けてから「弟」と、一言だけ答えた。
メールの内容は家で待つ弟達に宛てたもので、事情があって今日は家に帰るのが遅くなるから先に寝ていなさい、ということ。
夕飯はきちんと食べたのか、とか、明日のお弁当のこととか、一番下の妹さんのことだとか。
そんな内容を短く簡潔にまとめて送った。
送るまでに月子ちゃんはだいぶ内容を厳選していたようで、他にもいくつかの事を口にしては「やっぱり今のはいい」と言われて入力した文章を消すといった作業を数度繰り返し、メールが無事送信されたのを確認して、ひとまずは安堵の息を吐いていた。
ぼくはぼくで、久しぶりの内容のあるメール送信に若干緊張していたらしく、無事送信ボタンを押した時、ぼくも月子ちゃんと一緒に思わず息が漏れた。
こんなに長い内容のメールを送るという行為自体がひどく久しぶりで、なのに月子ちゃんの視力の悪さに最初画面のキー入力に手間取って、月子ちゃんの指はぼくより短く、いつもの感覚との違いに戸惑って。
ずっとドキドキしっぱなしだった。