ひとりぼっちの勇者たち
ある日学校に行くと、ぼくの国語のノートに「ヒトゴロシ」の文字が書かれていた。
全ページにびっしりと。
算数のノートには「右手が動かない右足も動かない」と。
理科のノートには、「目が見えない目が見えない」と。
そして連絡帳には「死ねばいいのに」と、一言だけ。
赤いインクを垂らしたような、いびつで歪んだ文字だった。
だけどノートに書いてあることは全部事実だった。
教室のあちこちから、くすくすと笑いが漏れていた。
昼間なのに教室内は薄暗く、カラスみたいなふたつの目が、いくつもギョロギョロと光っていた。
地元の名家の跡取りである長男が自殺したニュースは新聞にも載り、その新聞の切り抜きが紙ヒコーキになり、学校中を飛び回っていた。
でもその紙ヒコーキが描く軌跡は場違いなほどに綺麗だったから、天国の兄さんに贈ることにした。
今から10年前の話。
ぼくは今年、兄さんが死んだ年齢になった。