英雄飼育日記。
わざとらしく肩にぶつかってきたのは、私の友人の日ノ原 衣幸(ヒノハラ イユキ)。
三つ編みがかわいい、「大人しそう」という外見を見事に裏切る子でもある。
「な、何言ってるんですかー! 衣幸さんってばもー☆」
「どもってるよ咲葉ちゃんってばもー☆」
「…………朝から何言ってんだろーね」
「とりあえず私達両方バカってのはわかった」
そんなの知ってる、と冷静に返す。
朝からバカ2人がキモい言い合いしてごめんなさい。
誰にでもなく、2人で頭を下げていた。
頭を下げて3秒後。
我に返った私は衣幸の肩を掴む。
「てか私先輩のことそういう目で見てないからね!? 憧れてるだけだかんね!?」
「今日はそれでいーからがくがく揺らさないであ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
「いやああああ衣幸死なないでええええ!」
「………………教室入ろっか」
「うん」
冷静になり、2人で教室へと足を運ぶ。
本当に朝から何やってんだろ。あ、これはいつもやってたわ。
もしかして私は馬鹿なのだろうか、いや馬鹿なのは知ってます。あ、私天才じゃね?
自問自答し、自己解決して自画自賛。
そんな様子をすぐ表情に出している私を、衣幸はどういう目で見ていたのだろう。
きっと絶対零度の眼差しに違いない。
なんか想像するだけで泣けてきます。
これは涙でしょうか。いいえ、ケフィアです。
嘘です。心の汗です。
「涙は飾りじゃないんだぞおおおおお!」
「サク、教室着くんだけど」
「あーうん、わかった」
鞄を肩にかけ直し、教室へ一歩足を踏み入れる。
誰もいないだろうと思われた教室。
だが、そこに彼らはいた。
「あっ、おはよう。市木(シキ)君、風見(カザミ)君」
市木 来久(シキ ライク)と、風見 竜(カザミ タツ)。
「…………おはよう、日ノ原さんに守園さん」
「………………はよ」