英雄飼育日記。


わざとらしく肩にぶつかってきたのは、私の友人の日ノ原 衣幸(ヒノハラ イユキ)。

三つ編みがかわいい、「大人しそう」という外見を見事に裏切る子でもある。


「な、何言ってるんですかー! 衣幸さんってばもー☆」

「どもってるよ咲葉ちゃんってばもー☆」

「…………朝から何言ってんだろーね」

「とりあえず私達両方バカってのはわかった」


そんなの知ってる、と冷静に返す。

朝からバカ2人がキモい言い合いしてごめんなさい。

誰にでもなく、2人で頭を下げていた。



頭を下げて3秒後。


我に返った私は衣幸の肩を掴む。


「てか私先輩のことそういう目で見てないからね!? 憧れてるだけだかんね!?」

「今日はそれでいーからがくがく揺らさないであ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

「いやああああ衣幸死なないでええええ!」

「………………教室入ろっか」

「うん」



冷静になり、2人で教室へと足を運ぶ。

本当に朝から何やってんだろ。あ、これはいつもやってたわ。

もしかして私は馬鹿なのだろうか、いや馬鹿なのは知ってます。あ、私天才じゃね?

自問自答し、自己解決して自画自賛。

そんな様子をすぐ表情に出している私を、衣幸はどういう目で見ていたのだろう。

きっと絶対零度の眼差しに違いない。

なんか想像するだけで泣けてきます。

これは涙でしょうか。いいえ、ケフィアです。
嘘です。心の汗です。



「涙は飾りじゃないんだぞおおおおお!」

「サク、教室着くんだけど」

「あーうん、わかった」


鞄を肩にかけ直し、教室へ一歩足を踏み入れる。

誰もいないだろうと思われた教室。

だが、そこに彼らはいた。



「あっ、おはよう。市木(シキ)君、風見(カザミ)君」



市木 来久(シキ ライク)と、風見 竜(カザミ タツ)。



「…………おはよう、日ノ原さんに守園さん」

「………………はよ」
< 13 / 43 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop