英雄飼育日記。
正直言って、この2人とはあまり面識がない。
同じクラスというだけで、これといった接点さえないのだ。
それでもわざわざ名前を呼び挨拶を返してくれる風見はいい奴だろう。
すぐに机の上にて眠りにつく市木とは違って。
席につくため衣幸と別れ、私は教室の後ろ側へ足を運ぶ。
そして偶然、風見の席をすれ違った。
すれ違ったのは偶然。そう、偶然なのだ。
「あの使役獣、連れて来てないんだね」
はたして風見がそれを言ったのは偶然なのか。
偶然な訳ないと理解しつつ、幻聴だと思い込むことにする。
朝から疲れているのだから、そうに違いない。
学校が終わったら精神科へ行こう。ついでに眼科と耳鼻科にも。
「…………守園さん、だんまりはよくないよ」
聞こえるか聞こえないか。
それ程微妙な声量で放たれた言葉は、私を混乱させるに充分すぎた。
つまり私は、その言葉をかなり引きずった。
詳しく言うと放課後まで。
混乱が放課後で治まったわけではない。
混乱が、大混乱に進化したのだった。
「無視はひどいと思うよ」
「………………タツ、こいつがか?」
「朝見たからね、間違いないよ」
守園 咲葉(15)、現在クラスメート2名に追いかけられております。