英雄飼育日記。
すぐ目の前には、驚愕している様子の風見の顔。
その横には余裕の笑みを浮かべているカナトが立っている。
私から5mくらいの離れたところにいる市木は、呑気にあくびをしていた。
そして巻き込まれている私は、ただ固まっていた。
動かざること山のごとし。
そんな言葉が似合うくらい、私は動けずにいた。
まるで、足が重い石となってしまったかのように。
「朝、彼女の能力を見なかったのかい?」
そう言うなり、カナトはダガーを何本か構える。
その口元には弧を描いて。
「彼女のは、並大抵の種じゃない」
「…………そうみたいだ」
「ならば、私の使役者に手を出した責任をとってもらおうじゃないか!」
悪役丸出しの笑みでダガーを構え直すカナト。
私はそれを見て、思わず叫んでしまった。
「やめろ!」
すると、カナトは面白いようにぴたりと動かなくなってしまった。
その様子をただ見ているだけの残り三人。
カナトを見たまま静止する私と風見。
一方、市木はというと。
勢い良く噴き出していた。
「…………………っ、ははっ、あんたバカじゃねーの」
顔を逸らし、笑いをこらえようと口元に手をあてている市木。
でも全くこらえきれてないという。
「あー、ほんとバカみてー…………タツ、放していい」
「…………わかりました」
市木の一言により、ようやく解放される。