英雄飼育日記。
「…………私が何をしたって言うの」
頭を抱え、ため息を吐いた。
その言葉は、あまりにも理不尽な悪夢に対しての不満。
一般市民の小さな悲鳴ともいえた。
その悲鳴は確実に、誰にも届かないのだろうけど。
ほんとに泣きそう。何が何やらでさっぱりだ。
混乱してパンクしそうな頭を整理するため、過去のことを思い返すことにした。
私の名前は守園 咲葉(モリゾノ サクハ)。
齢若干15の女子高生。よかった、記憶があやしくなってたりはしない。
いつからこんな悪夢を見るようになったのか。
確か4日前。
赤黒い影が追ってきて、私の手首を掴むところで夢が覚めた。
その時、手首には締め付けられたような痣ができていた。
3日前。
派手に転んですりむき、近づいてきたところで目が覚める。
膝に、擦り傷ができていた。
一昨日。
小学校低学年くらいの着物を着た男の子が、こう言った。
「アイツの名前をあてれば、助かるよ」
そして男の子に項に手刀を入れられ、目が覚めた。
昨日。
影は現れなかった。
かわりにいたのは、あの男の子。
「もう、明日が限界だよ」
その一言を言うなり、男の子は消えた。
そして夢の世界も消えた。
今現在。
前まで30分(体感時間)も経てば覚めていた夢なのに、今日はずっと覚めない。
何が「名前をあてろ」だ。
丁寧に名札つけてたりしないんだからわかるわけないじゃないの!
怒りを爆発させて落ち着いた私は、崩れた塀の隙間から影を覗き見る。