英雄飼育日記。
ぽかんと、そう言葉を漏らす私を見てカナトはため息を吐く。
ため息吐きたいのはこっちだっての、と心の中で密かに毒を吐いた。
カナトは、幼子を諭すようにゆっくりと話し始める。
「わかっているかい? 君は今まで目覚めていなかっただけで、元々力のある人間なんだ」
それに対する私の返答は、カナトとは対極的。
「でも私あんたに会う前でも後でもスプーン曲げたり瞬間移動したり火出したり氷出したり動物と会話したり遠くの景色を念写したりできませんけど!?」
息継ぎ無し。
元吹奏楽部員の肺活量と滑舌なめるなよ、と1人かっこつけてみる。
「それでも、風狼とその使役者に襲われたのは事実。これから彼ら以外にも、襲ってくる奴らがいるだろう」
カナトは私を見上げて言う。
その瞳には、どこかお願いしているような色があった。
何よ、結局夢じゃないなんて。
いきなり私が「普通の人間」じゃないなんて言い出して。
ファンタジー溢れるバトルを繰り広げて。
いい感じのパシリができて。
こんなの現実にあるわけないじゃない。
夢に決まってるじゃない。
どこで、私は世界を間違えたのか。
「………………着替えるから下で待ってて」
気を抜けば、あてのないどうしようもないわがままが口からこぼれてしまいそうだった。
受け入れるって、むずかしい。
開いて、閉じる扉を目にしながらそう感じた。