英雄飼育日記。
そこにいたのは、暴れまわっている赤黒いアメーバ。


きっと私を探しているのだろう。


私を見つけたその後は、なんて考えたくもなかった。




「やあ、まだ名前がわからない?」


君ならわかる筈だけど。

例の男の子が呆れたと言いたげな表情を見せる。

知るか、こちとら普通の女子高生なんだ。

見ず知らずの化け物の名前がわかるわけがない!


そう叫びたいのをぐっとこらえ、男の子の言葉に耳を傾ける。



目を閉じて、声を聞いてごらん。


さすればきっと、見えてくる。





そうとだけ言い残し、男の子は霧となって消えた。


ほんとに意味がわからない。


どうしてこんな悪夢を見なきゃいけない。

これが願望、だなんてありえないし。



またため息を吐いた。

その時、影の動きが止まる。



まさか。


気付かれた。


かも、という推定の言葉は必要ない。

影がこちらに向かっていることが判明したから。



「やってられんわー!」


諦めて立ち上がり、目を閉じる。

もう煮るなり焼くなり好きにしろ!




目を閉じたその瞬間、世界が静寂に包まれた。

唯一聞こえてくるのは、誰かと誰かの会話。


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