英雄飼育日記。
<アズリ様、今夜はどこへ>
<ああ、新しいマスターでも見つけてくれ>
<はぁ>
<私の使い魔はガレ、お前1人じゃないんだ>
<了解>
<じゃあ、さようなら>
その会話が終わった途端、世界に音が帰ってくる。
私は目を開け、向かってくる影を見て叫んでやった。
「ガレ!」
それは賭けだった。
どうせ夢なんだから都合のいい展開がくるに違いない。
そんな私の他力本願丸出しの予想は大当たり。
ちょうど運良く会話も聞こえ、こうして助かる。
やっぱり夢だから、当然だよね。
そう1人満足している中、影は地面へ溶けて消えていく。
1つの小さな卵を残して。
「お疲れ様」
「…………何よいきなり消えやがって」
「助かったんだから結果オーライってやつじゃないか」
にこにこと微笑む男の子はどこか嬉しそうでもある。
私は卵を手に取り、宙に浮かぶ男の子に突き出した。
「これ、何よ」
「ガレの卵だ。新しく名前をつけてやらないと、また影に戻ってしまう」
男の子は意地の悪い笑みを浮かべてそう言った。
選択権がないんですね、もうやだこの夢。
名前をつける。
どうせこれは夢なのだから好きにしたっていいんでないか。
自身の出来の悪い頭に再認識させ、決断を下す。
どうせ夢の中だからいい、と。
「カナ、ト」
とある人物を思い浮かべながら紡いだ名前は、空へ昇っていく。
そして男の子は満足そうな顔で、契約終了と言った。
「カナトは送っておくよ。本当にお疲れ様」
「…………は? ちょ、どういうことなの!?」
「君が新しい使役者(マスタ-)になっただけ」
「な、に、そ…………れ」
足元がぐらりと崩れる。
それと同時に、空がぐるぐると回っていた。
世界が回る、世界と混じる。
ポエマーチックなことを考えながら、ただぐるぐると回される。
どろどろと、世界の中に溶けていくように。
そして無事に目が覚めた。