英雄飼育日記。



悪夢はまだ続いているようです。


早く目が覚めてほしい、そして夢だと言ってほしい。

足を進める度に強まるその思い。

しかし、振り向けば男がいるのは事実。

早く事情を聞いて警察に連れていこう。私はそう決意した。



「座って」

「…………ハイ」


男はやけに素直で、私の言うことにすぐ従う。

私はそれに薄気味悪いと感じつつ、問いを投げかけた。



「あなたは誰?」

「私はガレ…………いや、今はカナトだったかな。あなた様の使役獣だ、です」


意味がわからん、と男の言葉を一蹴する。

いや待て。

ガレ、カナトというのは。



「…………私を襲った奴?」

「あの時は正気を失っていたのだ。感謝してい……ます」

「何かムカつくから敬語やめろ。あとよくわからんけど私を「マスター」呼ぶのも禁止」


思わず口が勝手に動いていた。

素直すぎるのは私の悪い癖だ、うん。

そんな私の要望を聞いた男、カナトの顔は笑えるアホ面。

ぽかんと口を開けっぱなしにしている。

当然、私は噴き出すのをこらえきれなかった。


「…………初めてだ」

「ははっ、あー、アホ面すぎて腹筋ほうか…………って何が」

「使役獣にそんなことを命令する使役者なんて、初めてだよ」


きっと私は夢を見ているんだ。

そう思わないとやっていられない。

目が覚めることを祈って、言葉を紡ぐ。


「もうこうなったら何でも聞いてやるわ。まずあなたの正体、何故私の家の前にいたのかじっくりと教えなさい!」



そう言い放った瞬間、平行感覚がずれた。


私が自分から倒れたりした訳じゃない。


何かに、殴られたのだ。



「え?」


「…………これは、風狼か!」



そう、カナトが口にした瞬間ソレは姿を現す。
< 6 / 43 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop