英雄飼育日記。
悪夢はまだ続いているようです。
早く目が覚めてほしい、そして夢だと言ってほしい。
足を進める度に強まるその思い。
しかし、振り向けば男がいるのは事実。
早く事情を聞いて警察に連れていこう。私はそう決意した。
「座って」
「…………ハイ」
男はやけに素直で、私の言うことにすぐ従う。
私はそれに薄気味悪いと感じつつ、問いを投げかけた。
「あなたは誰?」
「私はガレ…………いや、今はカナトだったかな。あなた様の使役獣だ、です」
意味がわからん、と男の言葉を一蹴する。
いや待て。
ガレ、カナトというのは。
「…………私を襲った奴?」
「あの時は正気を失っていたのだ。感謝してい……ます」
「何かムカつくから敬語やめろ。あとよくわからんけど私を「マスター」呼ぶのも禁止」
思わず口が勝手に動いていた。
素直すぎるのは私の悪い癖だ、うん。
そんな私の要望を聞いた男、カナトの顔は笑えるアホ面。
ぽかんと口を開けっぱなしにしている。
当然、私は噴き出すのをこらえきれなかった。
「…………初めてだ」
「ははっ、あー、アホ面すぎて腹筋ほうか…………って何が」
「使役獣にそんなことを命令する使役者なんて、初めてだよ」
きっと私は夢を見ているんだ。
そう思わないとやっていられない。
目が覚めることを祈って、言葉を紡ぐ。
「もうこうなったら何でも聞いてやるわ。まずあなたの正体、何故私の家の前にいたのかじっくりと教えなさい!」
そう言い放った瞬間、平行感覚がずれた。
私が自分から倒れたりした訳じゃない。
何かに、殴られたのだ。
「え?」
「…………これは、風狼か!」
そう、カナトが口にした瞬間ソレは姿を現す。