辛口男子の甘い言葉
なによ、そんなきつく言わなくたって…。
バレないようにこっそり店内を覗く。
店には広瀬と中年サラリーマンのお客さんだけだった。
そして何事もなく仕事を終え、私たちは一緒に帰る。
「ね、なんでさっき怒ってたの?」
「は?なんとことだよ。」
分かってて知らないフリしてるのはもろバレなんだけどなぁ。
「……いや、別になんでもない。」
気になるけど、無理に聞き出すほどでもない。
「つーかお前、今度から帰るときは先に1人で帰ったりすんなよ。」
「そんなの言われなくても、いつも一緒に帰るじゃん。」
「まぁ…そーだけど。」
笑いかけた私に照れているのか、そっぽを向いて言う広瀬。
今日の広瀬はいつもと違う、そのことに気づくのは3日後のことだった。
「あれ?」
「どした?」
「ヘアゴムがないの。レジの横にさっき置いたばっかなのに。」
お気に入りで最近ずっと着けていたゴムだった。
「俺は知らねーぞ。後で一緒に探してやっから、仕事しろ。」
広瀬に片手で追い払うようにされ、なんとなくカチンとくる。