辛口男子の甘い言葉

「えっ!?広瀬っ?」


このとき、やっと私は口を開いた。



「いーから!早く走れ!!」

意外にも、広瀬が焦っていたのを見て、私は少し不安を覚えた。


…何……?




広瀬はさっきの外人が追ってこない事を確認して、しばらく離れたところで足を止めた。



「ね…さっきの誰?てか、何で逃げんの。」

「お前を巻き込みたくないから。」


スパッと言われた一言は、とてつもない強さで私の心臓を揺らした。



な、なんか調子狂う…。






「あいつは…いや、まだいいわ。今度話す。」


そう言われたから、私はそれ以上突っ込む事ができなかった。



「…うん。」


「とりあえず、あいつに見つかる前に奈絃は家に帰れ。」



そして、しっかりと家まで送ってもらい、その日は終わった。






そして、沢山の疑問を抱えたまま、数日が過ぎた。





そんなある日、始業式の終わった教室で広瀬は私に言った。


「奈絃。」

「なに?」


「お前、今日バイト来んな。店長も承諾済みだから。」




…はい?


「…なんで。」


「なんでも。」


「なんで。」


「……………おい」


「はい!!行きません!行かないです!行かないこと誓います!!」




それで満足したのか、広瀬は自分の席に戻っていく。


「理由ぐらい言ってよ……。」


私はその背中を見ながら、広瀬に聞こえないくらいの声で呟いた。



< 51 / 57 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop