辛口男子の甘い言葉
「えっ!?広瀬っ?」
このとき、やっと私は口を開いた。
「いーから!早く走れ!!」
意外にも、広瀬が焦っていたのを見て、私は少し不安を覚えた。
…何……?
広瀬はさっきの外人が追ってこない事を確認して、しばらく離れたところで足を止めた。
「ね…さっきの誰?てか、何で逃げんの。」
「お前を巻き込みたくないから。」
スパッと言われた一言は、とてつもない強さで私の心臓を揺らした。
な、なんか調子狂う…。
「あいつは…いや、まだいいわ。今度話す。」
そう言われたから、私はそれ以上突っ込む事ができなかった。
「…うん。」
「とりあえず、あいつに見つかる前に奈絃は家に帰れ。」
そして、しっかりと家まで送ってもらい、その日は終わった。
そして、沢山の疑問を抱えたまま、数日が過ぎた。
そんなある日、始業式の終わった教室で広瀬は私に言った。
「奈絃。」
「なに?」
「お前、今日バイト来んな。店長も承諾済みだから。」
…はい?
「…なんで。」
「なんでも。」
「なんで。」
「……………おい」
「はい!!行きません!行かないです!行かないこと誓います!!」
それで満足したのか、広瀬は自分の席に戻っていく。
「理由ぐらい言ってよ……。」
私はその背中を見ながら、広瀬に聞こえないくらいの声で呟いた。