Like the sky
「…顔、覚えてたんだけど、名前…」
照れくさそうに、呼び止めた理由を話す熊谷さんに
あたしは
今日一番の驚いた顔をして見せた。
だって。
呼び止められたこともそうだけど…
げ…芸能人から
た…ただの
ディレクターの名前、聞いてくるなんて―…
絶対ありえない―…。
これも
芸能界では当たり前みたいなもの。
だから、あたしが余りにも驚いた顔をしたせいか
熊谷さんの方も、さすがに驚いていて
「なんかオレ、マズッた…??」
とか心配されちゃって。
「い、いえ。すみません。ちょっとビックリしただけで…。タレントさんから名前聞かれたのなんて初めてだったので―…」
なんて返事をしながら
名刺持ってくれば良かったなぁ―…とか考えたりしちゃって。
でも初めての経験に
歯痒くもあり
嬉しくもあり
あたしも照れながら答えた。
「…悠紀といいます」
「下の名前が?」
「いえ、名字です」
「変わってんね」
「よく言われます…」
「んじゃ、下の名前は?」
「………?…ゆき、ですけど?」
「ゆうきゆき?」
「はい…」
「マジ、変わってんね」
そう言って熊谷さんは、また盛大に吹き出していた。
あたしは変わった名前で笑われ慣れてたけど
あんまり豪快に熊谷さんが笑うから…
ついつい吊られてあたしまで笑っちゃったんだ。
*