君桜
今にも消えてしまいそうな声が、耳に入ってくる。
「学さん………」
一人にしないで、と葉奈は続けた。
「葉奈、大丈夫だから。…病院行こう」
「びょう、いん……?」
葉奈の顔色が変わった。
「葉奈…?」
な、なんだ?
「病院、行かない…っ!…っ」
「馬鹿!大声出すなよ、苦しいんだろ!」
なんだよ。
どうしたんだよ、葉奈。
何でそんなに、嫌がってるんだよ。
「病院行ったら、聞かれちゃう…!」
「何をだ!」
「聞かれちゃうから、嫌だぁ!」
両耳を押さえて、叫ぶ。
「葉奈!葉奈!!」
この動作、あの時と一緒。
俺が初めて、葉奈を抱きしめた時と。
あの男から逃げているようだった、怯えていたあの時と…。
「だ…か、ら……っ、ハァ…っ」
「馬鹿、無理してんじゃねぇ!」
胸元をぎゅっと抑えて苦しそうに息をしている。
相当熱、上がってきてる。
心配だから、病院行こうぜ、葉奈……。