君桜
――【SAKURAGI】
家の表札にはそう書いてある。
ここはあたしの家。
居場所のない、家。
だからこの扉を開けていいのかどうか、毎日ためらっている。
――ガチャンッ!
…ああ、またか。
食器が割れた音がした。
そして。
甲高い声と、低い声。
2種類の声が交互に言い争っている。
あたしは見て見ぬふり。
コレに関わってはいけなことを知っているから。
関われば関わるほど、自分が苦しむことを知っているから。
「だから、言ってるじゃない!!お願いだからやめてちょうだい!!」
…ああ、あの人は今日も泣いているのか。
すすり泣く、あの人。
今は遠い、あの人の泣き声。
それが聞こえなくなったのは、今日。
次の日の新聞には、あたしの‘‘母親’’の名前が載った。