君桜
「…どんな夢だ?」
聞いてみてもいいのだろうか。
俺は、葉奈の心に踏み込んでいいのだろうか。
少しでも、葉奈に近づきたい。
だから、葉奈。
俺に、心を開いてくれ――――――――………
「…昔の夢」
ボソッと言った葉奈の声を俺は聞き逃さなかった。
逃がしてはいけない。
見逃してはいけない。
繋ぎとめておかなければ。
「昔の、夢?」
うん、と頷いて俺の胸に顔を埋める。
きっと顔を見られるのが恥ずかしくなったんだろう。
そういうところが、幼く見えて、可愛いんだけどな。
ゆっくりと葉奈の色素の薄い茶色の髪の毛を指ですいて、頭を撫でる。
葉奈の肩の力が少しだけ抜けた。
「…まだ、お母さんが居たころで。お父さんが怖くなかった時のこと」
俺の目を見ないでそういった。
‘‘お母さんが居たころで’’‘‘お父さんが怖くなかった時のこと’’。
正直びっくりした。
葉奈の口から今まで‘‘家族’’の単語をあまり聞かなかったから。
いざ聞くと、なんでだろう。
胸騒ぎがするんだ。