君桜
少しだけの安心と多くの不安。
久しぶりに舞い戻った我が家に、こんなに不安がある人は世界中を探してもいないんじゃないか、と思った。
家には入れれば簡単。
行く場所は、あたしの部屋…
出て行った時と変わらない、何も動かされていない部屋はあたしの不安を少なくとも取り除いてくれた。
「制服…!」
ハンガーにかかった制服は、主をなくして寂しくかかっているように見える。
違う。
あたしは、こんなことをしに来たわけじゃない。
さっきの人の声。
学さんの電話口から聞こえた、あの女の人の声。
聞いたことがある。
思い出したんだ。
あの日のこと。
あの時のこと。
あの人のこと。
絶対、絶対、ここにあるはずだ。
あたしの記憶が正しければ、机の下に箱が――――
「あった…」
封印していた、この箱。
いつの間にか存在すら忘れてしまっていた。
――カチッ…
あたししか知らない箱のキーナンバー。
それを打つと心地よい音がして、箱が何年振りかの下界の光を浴びる。