君桜
一瞬、この人の向こうに、アイツが見えた。
アイツはこっちに目もくれず、どこを見ているのかも分からない目線であたしの前を通り過ぎていった。
「…ハァ…」
良かった。
見つからなくて。
殺されずに、済んで。
「…今のは、誰だ?」
「……」
「お前は、アイツと暮らしているのか?」
「……」
「まさか、アイツから逃げてきたのか?」
「……ッ」
何も答えないあたしにあきれることもなく、その人はずっとあたしの頭を撫で続ける。
「父親か?」
…どうなんだろう。
実際あの人とは親子なのか分からない。
小さい時から親子だと言われ続けてきたけど、名字は違う。
一体、アイツとあたしは…どういう関係なのだろうか。