君桜
タクシーがマンションの前にとまる。
「お客さん、お連れさん、風邪かい?」
運転手がお金を払っている俺に聞いてくる。
「…ええ、まぁ」
「可愛い彼女ですね」
「……」
彼女、か。
彼女じゃねぇんだけどな。
…そうなってくれれば、いいんだけど。
タクシーを降りて、エレベーターに乗る。
今にも俺の背中から落ちてしまいそうな葉奈。
それをしっかりと受け止める。
荒い息遣いだけが、聞こえる。
苦しいんだな。
さっきからずっと何か唸っている。
夢か?
夢を見てるのか?
何でそんなに苦しそうなんだよ。
どんな夢を、見てるんだよ。
お前のことなら、なんでも知りてぇ。
俺は、お前に、惚れている。