幻想童子
「で、あんた誰?」

俺に蹴りを入れた女性はそう切り出した。

「よく考えたら、俺知らない人に蹴り入れられたんだよな」

「男が細かいこと気にすんなっての」

「細かくねぇよ」

「で?名前は?」

「ああ、俺は一ノ瀬由紀。これをこの子に返そうと思って…」

上着からあの手帳を取り出し女の子に返した。

「ありがとう…。もう少し持ってても良かったのに…。」

「あんたそれ、大事なものでしょ?」

「うん。大事…」

「こんなわけのわからん男に預けてたの?」

「わけのわからん男って…」

あんたに言われたくないよ。人に蹴り入れといて。
「うん…。自分でもよくわからないけど…」

「あんたねぇ…」

「確かに俺でも無防備すぎると思うぞ。てか中身面白かったぞ。それ童話だろ?」

「…!!…うん…。そうだけど…」

「よく書けてるよ。てか俺でも面白いって感じた。」

「あんた中身見たんだ?」

「最初は罪悪感感じたけどなんか気になって」

「とんだ変態ね」

「悪いって思ってるよ!!」

「感想は……?」

「へっ?」

「これを読んで…どう思った…?」

不意に女の子に聞かれ、一瞬困ったが自分で読んでいて気になったことをそのまま伝えた。

「よく書けてると思うよ。けど…なんか、読んでて寂しかったな」

「淋しい…?」

「なんて言えばいいかな…。技術レベルはすごいと思う。けど読んでいてもなぜか寂しい気持ちになってくるかな…」

「あんたそれ口説いてるの?」

「感想そのまま伝えただけだよっ!!」

「……」

女の子はしばらく黙って俺を覗き見るように見ていた。

「ん?どした?」

「ううん。何でもない…。ありがとう…。」

「俺の方こそありがとな。いい勉強になったよ。」

「ん…。」

そう言うと女の子は部屋を後にした。
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