幻想童子
「そういえばユキリンはなんの仕事してるの?」

「俺は普通のサラリーマンだよ」

「華がないねぇ」

そう葉月が答えた。
特にこういう仕事がしたいとか、社会に貢献したいとかそんな気持ちなどなくただ惰性で仕事をしている。

そう言った方が俺にしっくりくる。ただひとつを除いては

「ん?なんじゃこりゃ」
テーブルに置きっぱなししてあった茶封筒を葉月が手にして言った。

「ああそれか」

葉月が中身を取り出して原稿を読み始める。
漫画の見るのが初めてなのか、最初はもの珍しそうに見ていたが段々真剣な顔つきになって読んでいった。

正直こんな風に真剣読まれたのは初めてで、担当ですらパラパラ捲る程度でしか読まない。

「ふう」

一通り読み終わったのか葉月は一息ついていた。早く読み終わったもののパラ見ではなく、殆ど読んでいる感じであった。
「うーん、45点かなぁ」

「はい?」

急に点数を告げられ、思わず変な声で答えてしまう。

「作画はいいんだけど、ストーリーがちょっとベタすぎるかなぁ。あとコマ割りがイマイチかなぁ」

確かに俺はあまりコマ割りは得意ではない。物語の展開を上手く運ぶ為の演出も苦手で、上手い人だと次のページに焦らすような演出をするのだが俺はあまりそういうことができないタイプだった。

次々と自分の弱点をつかれ、反論できなかったがひとつおかしな事に気づいた。

「あんた今なんて言った?」

「ストーリーがベタとかコマ割りがイマイチとか?」

「その前だよ」

「作画が良い?」

作画が良い?俺の?
「あんた本気で思ってるのか?」

確認するように聞いたが答えは同じだった。

「いいと思うよ。女の子可愛いし、男も頼りなさそうな物語の主人公に合ってるし。」

「そ、そうか」

なんだろう、ノリさん以外から自分の作画を誉めて貰ったのは初めてだったから、自分では形容しづらい感情がこみ上げていた。
< 16 / 21 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop