BLACK
どうして…。
「…うっ…うっ…」
「待ってるよ。早く奈美ちゃん抱かせてよ」
なぜ母は昔のままなんだろう。
過ぎてしまった時間はこんなに長いのに。
なぜ私はもっと早く気付かなかったんだろう。
いつも側に、欲しかったものがあったのに。
「…でも……」
これまでしてきた事が頭をよぎって。
素直になれない。
そんな私を見通すように母は言った。
「でもじゃない。帰ってくるの!」
「……」
「分かった?」
母さん…。
ありがとう。
「…うん…」
私は子供みたいに泣きじゃくり、頷いた。
母は笑っていた。
手に握ったままだった『お願いレター』を、くしゃくしゃと丸めた。
もう必要ないよ。
願い事は叶ったから。
思い出と一緒に丸めた『お願いレター』を、カウンター下の緑のゴミ箱に投げ入れた。
「奈美!おばあちゃんに会いにいこっか」