冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「すみません……」

 彼女は、膝一つ分だけ彼から離れて座った。

 警戒されたとしても、カイトには文句を言えるハズもなかった。

 二人。

 お互いを見ないまま、ただ沈黙がもやになる。

「何で……ワケ話さねーんだ」

 長いもやの中で、少しだけ落ちつくことのできたカイトは、空になったグラスを持ち上げながら呟いた。

 彼女が、ウィスキーの瓶を持とうとしたが、それを途中で奪い取る。

 勝手に自分でつぎ始めた。

「言っても……」

 彼女は声を震わせながら、ようやく口を開ける。

「言っても…もう、しょうがないことですから」

 うつむいて。

 けれども、覚悟が全然足りていない声。

 この世界で彼女が生きていくには、どれくらい傷だらけにならなければいけないのか。

「クソッ……」

 自分の苛立ちを、そう声にしてしまった。

 隣の身体が、それに震える。

 何で、今日会ったばっかりのランパブのホステス相手に、ムキになっているのか分からなかった。

 何で、こんなにイヤなのかも分からなかった。

 隣を見る。

 下着姿であったとしても、全然そういう欲求が煽られなかった。

 何かしようものなら、自分が世界で一番サイテーな男に成り下がったような気がする。

 ランパブだろうがソープだろうが、行ったことのある男なのに、だ。

 けれども、自分以外の男が、彼女を見て自分と同じように考えるだろうか。

 絶対に違うだろう。スレてないのをいいことに、彼女を――!!

 ガタッ。

 カイトは立ち上がった。

 耐えられない想像が、頭の中を渦巻いてしまったからだ。

 やっぱり、どうしても、絶対、イヤだった。

「お客様……」

 ボックスから、彼が出て行こうとするのに驚いて、彼女が声をかけようとする。

 カイトは、くるっと振り向いた。

「いいか……そっから絶対出てんじゃねーぞ」

 そこにいろ!

 強く言い捨てると、ウィスキーで汚れた姿のままボックスを離れたのだった。
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