冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 眉が寄る。

 ハルコは、いま食事の支度をしたと言ったのだ。

 そんなことは滅多にない。

 何故ならば、カイトやシュウはいつも夜が遅く。
 結婚しているハルコは、そんなに遅くまでこの家にいられないのである。

 だから、夕食の支度は彼女の仕事の中に含まれていなかった。

 仕事。

 そう―― ハルコは、この家の通いの家政婦なのである。

 勤め始めて半年くらいだ。

 けれども、そんな短い期間以上の付加価値が、彼女にはついていた。

 元々彼女は、カイトの秘書だったのである。

 ハルコは、とても有能だった。

 仕事も出来るし、人間として丸かったおかげで、社長の癇癪もうまくやり過ごせたのである。

 彼女が結婚退社した後は、しばらくカイトはいろんなことに慣れずに困った。

 新しい秘書は、勝手が全然違ったからだ。

 そんな時、いままで勤めていた彼の家の家政婦が辞めることになり、また困るハメになった。

 ほとんど誰もいない家を、安心して預ける家政婦を探すのは大変だったからだ。

 ここは男所帯。

 しかも、掃除や洗濯をするヒマがあれば仕事をするような2人である。

 着替えがなくなったり、ベッド以外の部分にホコリがつもるハメになるのは目に見えていた。

 パートでよければ。

 それが、ハルコの返事だった。

 シュウが彼女に依頼したのである。

 人選は、確かだった。

 秘書としての腕も知っているし、ずっと付き合いもある。

 だから、これまでほとんど家政婦としてのハルコの顔を見ることはなかったけれども、不満は何もなかった。

 いつも綺麗な部屋や着替えを、まるでこびとが夜中靴を作ってくれたかのように甘受することが出来たのだ。

 勿論、給料は払っているが。

 そんな、家のことを知り尽くしているハルコが。

 いま、食事の用意をした、と言ったのである。

 メイがいるせいかもしれない。カイトの穿ちすぎなのかもしれない。

 しかし、彼にしてみれば、ハルコがいまの事態を予想していたような気がしてしょうがなかったのだ。

 あの電話で、彼が飛んで帰ってくると。
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