冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 ムッカー。

 今度の不機嫌は、一気に頭のてっぺんまで跳ね上がる。

 どうにも、うまくあしらわれているような気がしてしょうがなかった。

「メシなんか食うか!」

 衝動のまま、カイトは怒鳴っていた。

「あら…」

 ハルコは、殊更に困ったような顔になる。

 2人の顔を見比べながら。

「けれど、彼女はまだ食事をしていないのよ…お昼も、ほとんど召し上がらなかったのに」

 ちゃんと食べさせてあげてね。

 いちいち、何かを奥歯に挟めたような言い方をする女である。

 それを感じる度に、イライラしていくカイトのことを、本当はちゃんと知っているのではないかと思うくらい。

 秘書時代からでも、いつもこういう言い方をしていたのだ。

 これでは。

 そうしないと、カイトが物凄くひどい人間のように思える。

「あ…あの…ホントにおなかすいてませんから」

 とどめは。

 階段の一番上のメイだった。

 2人の間の空気に気づいてか、慌てて口を挟んでくる。

 ムカムカー!!!

 地団駄を踏みたかった。

 メシくらい、ちゃんと食え!

 それとも、カイトの家ではご飯も食べたくないのか。

 他に思うところでもあるのか。

 勝手な想像が、一気に頭の中を巡り始める。

 おかげで、また彼は勝手に怒るのだ。

「来い!」

 思わず、メイに向かってそう怒鳴っていた。

 びくっと驚く身体。

 後ろで、ハルコがどんどん階段を下りていく足音が聞こえたが、もう彼はそんなものには構っていられなかった。

 視線を、メイに注いで動かさなかった。

「来いっつってんだろ!」

 カイトがもう一回言っても、固まったまま動かないものだから。

 彼は、凄い勢いで階段を走り登った。
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