冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 そうして、彼女の腕をつか。

 つか。

 つか―― む寸前で一瞬ためらう。

 昨日から、『触れる』という行為には、大きくひっかかっている彼なのだ。
 容易には、そのタガは外れない。

 クソッ、しょうがねーだろ!

 恐ろしく早口で、カイトは自分を納得させようとした。

 来いと言ってるのに、メイは動かないのである。
 このまま、寒い階段にいつまでもいるワケにもいかなかった。

 グググッッ。

 カイトは、指先を彼女の側で止めたまま、無駄に力だけを込めた。

 まだ、手首を握れもしないくせに。

 メイは、すぐ側の彼を見ることも出来ないらしく、うつむいている。

 チクショウッ! そういうんじゃないからな!

 カイトは。

 自分と彼女に大声で、そう言い訳した―― 心の中で。

 変な意味で触るんじゃない、仕方なくだ。

 そう言いたかったのだが、心の中ですらうまく言葉が操れなかった。

 しかし、その言葉のおかげで、ようやく自分の心にあるセーフティが、一つ外れたのだ。

 気合いを込めて、メイの手首をぐいと掴むと、小さく「あっ」という声が漏れた。

 ズキンッ。

 それがカイトの胸を刺したが、感じないフリをしながらぐいと引っ張ったのである。

 これは、そんなんじゃねーんだからな!

 やっぱり、心の中で大声で言い訳をしながら、彼女を引っ張って階段を下り始めた。

 後ろを振り返らないようにしながら、ずんずんと進む。

 一番下までたどりついた。

 すると―― 玄関のところで、ハルコが2人を見ているではないか。
 あの微笑みを浮かべて。

 カァッ。

 一気に、恥ずかしさが全身を巡る。

 何でそこにいんだよ!

 そう悪態をついたところで、ハルコの視線からいまの事態を消すことはできない。

「今度…相談したいことがあるの」

 彼女は、どうやらそれを言い忘れていたらしい。

 しかし。

 いまのカイトには、何も聞こえなかった。

 彼女を無視して、早く視界から逃げたい気持ちで一生懸命だったのだ。

 ハルコに反応も返さず、メイの手を、前よりももっと強く引っ張って逃げちらかしたのだった。
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