冬うらら~猫と起爆スイッチ~

11/30 Tue.-4

●23
 あっ。

『メイは、おどろきとまどっている』

 RPGの戦闘画面なら、さしづめ彼女は先制攻撃を食らったモンスターというところだった。

 カイトが、彼女の手首を掴んで引っ張ったのである。

 かぁっと、一気に耳が熱くなったのが分かった。

 お互い、ちゃんとした服を着て出会ったのは、本当に今が初めてのこと。

 彼の前で、自分の姿の心配をしなくていいというのに、どうしても今までのことのせいで、恥ずかしかったり落ち着かなかったり、不思議だったり。

 どうやって、真顔で会えるというのか。

 それなのに、ハルコは彼女をカイトの前に引き出した。

 しかも、どんな言葉から始めたらいいのか分かりもしないメイを置いて、帰ろうとするのである。

 何故帰るのか分からなかった。

 いや、それ以前に彼女の言った言葉に、不思議な単語が混じった。

『夫』?

 メイは、驚いた余り声をあげてしまう。

 カイトとほぼ同時に。

 でも、きっと彼は違う意味で驚いたのだろう。
 どういう意味かは、分からないけれども。

 夫――ということは、ハルコは妻なのだ。

 けれども、彼女の相手はどこか知らないところにいる知らない人のこと。

 わたし…。

 自分が、妙な誤解をしていたことに気づく。

 カイトとハルコがどういう関係かは分からないが、少なくとも彼女の意識を掠めたものとは、まったく違っていたのだ。

 早とちりだったのである。

 バカみたい。

 掠めた意識で、ワケもなく泣き出してしまったことを思い出すと、顔から火が出そうだった。

 彼女に会わせる顔がない。

 しかし、ここでハルコに帰られても困るのだ。

 慌てて呼び止めようとした。

 自分の中で、何が生まれるか分からない卵を抱かされている気分で、カイトと2人きりにされるのは困るのである。

 それなら、まだ恥ずかしくてもハルコといたかった。

 なのに、彼女は帰るのをやめる気配がない。

 笑顔で、『また明日』というのだ。
< 104 / 911 >

この作品をシェア

pagetop