冬うらら~猫と起爆スイッチ~
□24
 ドックン ドックン ドックン。

 カイトの神経は、全部背中に取られた。

 心臓につながっている神経は、本当に全部、だ。

 かすかに、何かが背中に触れているのが分かる。

 一瞬前、確かにメイはぶつかったけれども、いまはほんのちょっとだけ何かが触っている。

 髪の毛とか、とにかくそういうレベルの。

 真後ろに――彼女がいるのだ。

 背中のアンテナは、息づかいさえ拾おうと精度を上げる。

 ぐす。

 しかし、よりにもよってなタイミングで、音を拾った。

 あっ。

 ビクッと心臓が飛び上がる。
 一気に体温も跳ね上がった。

『彼女……泣いてらっしゃいましたよ』

 ハルコの声が、頭の中を突き抜けた。

 最初に電話で聞いた時よりも、もっともっとひどい衝撃だ。

 そ、そんなに!

 カイトは、暴れたかった。

 いや悔しかった、苦しかった。

 身体は固まったままだけれども、彼のハートは急転直下に落ちていく。

 そんなに、オレに触られんのがイヤなのかよ!

 泣く理由なんてないハズだ。

 ずっとそれを考えていた。

 しかし、こんな状況で彼女は泣いてしまったのである。

 特別なものと言えば――彼が掴んでいる手首。それくらいだ。

 泣きたいのはカイトの方だった。

 そういうんじゃなくても、ダメなのかよ!

 うつむくと、悔しさがこみあげてくるのを喉元に感じた。

 しかし、その手をしばらく離せなかった。離したくなかったのだ。

 きっとこれを離してしまったら、自分の中のセーフティはもっと強くかけられるだろう。

 もう二度と、彼女に触れられなくなるかもしれないのだ。

 この感じを、カイトは失ってしまうのである。

 それが、とてつもなくイヤだったのだ。
 ワケなんて分かっているハズもない。

 けれど、イヤだったのだ。
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