冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 クッ。

 しかし、背中には泣いている女がいる。

 女を泣かす機会など、彼にはほとんどなかった。
 そこまで、深く関わったことがないのだ。

 高校時代は、彼もまだガキで。

 女なんて――そういうポーズを作っていた。

 大学に入ってからは、プログラミングで忙しくて、ついには会社まで作ってそれどころじゃなかった。

 本格的に会社を大きくしてからは、寄ってくる女は全部違うものが目当てのように思えた。

 要するに、いままで誰とも深い付き合いはなかったのである。

 カイトの心は、いつも彼のものだった。

 こんなに乱れたり、かきむしりたい気持ちになったことなんか。

 こんなに。

 カイトは眉間に強くシワを刻んだ。

 顔を歪めて、でも、手を離さないと彼女が泣くのである。

 彼に触れられると、メイは泣くのだ。

 一度、ぐっと強く手首を掴んでしまった後――ようやく、カイトは指を解いた。

 一本ずつ空気に邪魔されていく。

 オレは。

 手を離して、ゆっくりとカイトは振り返った。

 心の内側から、何が出てこようとするのだ。

 どんなしっぽの動物か、彼は見ようとした。

 メイはうつむいている。
 いまの彼の角度からでは、表情は分からない。

 しかし、見てしまうとダメだった。

 その震える小さな身体を、ぎゅうっと抱きしめたい衝動が腕に走るだけだったのだ。

 かき抱きたいと。

 そして、『泣くな!』と言いたかった。

「オレは…」

 思っている言葉が、ふっと喉からこぼれた。

 目をそらす。

 もうメイは衣服を着ていて、見るのに何も問題はないというのに、うまくそれが出来なかったのだ。

 この女を。オレは。

 オレは、この女をほ…。

< 110 / 911 >

この作品をシェア

pagetop