冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「カイト…」

 ギックー!!!!

 カイトの心臓は、鷲掴みにされたように驚いた。

 名前が呼ばれたからである。

 しかし、それはメイではなかった。

 彼女が、そんな風に呼ぶハズもないからだ。

 第一、声も違う。

 もっと低い――女じゃない生き物。

 カイトは、おそるおそる顔を上げた。
 メイのうつむいた頭の向こうには。

 能面の表情の、彼の相方がいたのである。

「うわっ…!」

 カイトは、慌ててメイから飛び退いた。

 まるで情事の現場を、目撃されてしまった気分である。

 彼女も、第三者の乱入に我に返ったのか、ごしごしと目を拭き始めた。

「今日はお疲れさまでした…契約書をいただいてまいりました。私が社長の代理で印鑑を押させていただきましたので、確認をお願いします」

 ツカツカとダイニングに入ってきながら、彼に茶封筒を差し出す。

 いつもよどみのない機械的な足取りだが、今日は尚更、ロボット軍団が攻め込んでくる時のような速度だ。

 てめっ!

 カイトは、近づいてくる彼の手からばっと封筒を奪い取ると、さっさと消えろ、という目で睨みつけた。

 今でなくてもよさそうなことを、わざわざ持ってくるのだ、この男は。

 ここにただよっていた空気を、一切感知してないに違いない。

 センサーがファジィ対応ではないのだろう。

 この初期型ロボット野郎!

 今度、絶対改造してやる。

 カイトは心に誓った。

 茶封筒を受け取ったものの、開けるつもりもない。
 いま開けてもしょうがないからだ。

 それよりも、この唐変木ののっぽを、どこか異次元へ飛ばさなければならなかった。

 でなければ、その向こう側にいるメイが、全然見えないのである。

 いま、どんな表情をしているかすら。

「それから…」

 しかし、シュウはまったくもって話をやめる気はないらしい。
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