冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「それから…今日のようなことは、もうしないで下さい。契約の場を私に任せてボイコットするなんて…いままではなかったですよね?」

 そんなこと、自分が一番よく知ってら、ということを、わざわざシュウは突きつけてくる。

 そうなのだ。

 カイトは、彼を置き去りにしてきたのである。

 あのハードメーカーとの契約は、当日中に行わなければいけなかった。

 いや、別の日でもいいのだが、そうなると彼らに分が悪かった。

 契約書でなければ、拘束力を持っていないのだから。
 後になって、やっぱりあの条件じゃいらない、と言われると困るのだ。

 だから、あの日のうちに契約書を作成し、目を通し、契約を完了させる必要があった。

 しかし、その仕事をシュウに任せて、カイトは出てきてしまったのである。

 彼が運転してきた車に乗って。

 きっとシュウはタクシーででも帰って来たに違いない。

 リモコンも持っていなかった彼は、門のところで降りて、それから脇の通用口から入ってきたのだ。

 だから、コートの肩の色が違っているのである。

 外は、まだ雨が降っているのだろう。

「大体…あなたがそんなにしてまでも早く帰らなければいけない理由である、この女性とは何者なんですか」

 カッッ。

 シュウは踵を鳴らした。
 そうして、後方を振り返るのだ。

 まるで、社長の仕事の邪魔をする原因を排除するかのように。

 どこまでもロボット的な考え方だ。

 ムカッッ!

 カイトは反射的に怒っていた。

 理由は二つ。

 余計なことをよどみもなく言う口と、彼の分析で原因をメイにあると考えた頭と。

「てめーにゃ、関係ねぇ!!」

 ブン殴られてーか!

 シュウの身体が、吹っ飛ぶくらいのパワーで怒鳴っていた。
< 112 / 911 >

この作品をシェア

pagetop