冬うらら~猫と起爆スイッチ~
●25
 泣いているのは、きっとカイトにはバレただろう。

 手を離して、振り返ったから。

 メイは、顔を上げたりしなかったけれども。

 そんな時だった。
 もう1人の男が帰ってきたのは。

 そうなのだ。

 メイはうっかりしていたけれども、この家にはもう1人いたのである。

 朝に会った、あののっぽの男。

 どうやら、この家に住んでいるのは2人だけのようである。

 涙を見られると、あらぬ誤解を受けるかもしれない。

 メイは慌てて目をこすった。
 びっくりしたおかげで、ちょっとだけ悲しい気分が物陰に隠れる。

 そうしている内に、外界では言い争いのような状態に発展していた。

 のっぽの男が、カイトに何かを渡しながらクレームをつけているようだ。

 目を拭き終わってぱっと顔を上げると、のっぽの男の背中のせいで、彼の姿が見えなかった。

 すっぽりと向こう側なのである。

 だから、いま彼がどんな顔をしているのかなんて、メイには分からない。

 泣いた彼女を、いや、昨日という過去のある彼女を、どういう風に思っているのか。

 それを表すはずの、グレイの目が見えないのだ。

「大体…」

 男が振り返った。

 いきなりのことにびっくりする。

 眼鏡の向こうの目が、まっすぐに彼女を捕まえたからである。

 やっぱりその目に、歓迎する色は一色も入っていなかった。

 分析されるような目だ。

 値踏みとはまた違う。

 そうではなく、もっと科学的に解剖されているような冷静さが伝わってくる。

 こんな目にさらされたことはなかった。

 彼の前にいるだけで、自分は箱から出されたばかりのコンピュータのような気になる。
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