冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「大体…あなたがそんなにしてまでも早く帰らなければいけない理由である、この女性とは何者なんですか」

 その男は、メイに話しかけているようで、実はそうじゃなかった。

 目は確かに彼女に固定しているけれども、言葉は背中のカイトに向かっている。

 メイは、止まった。

 彼の言葉を、よく飲み込めなかったのである。

 いや、ちゃんと聞こえたが、まるで喉の途中でつかえているようで、ごくんと胃袋に落とせないのだ。

 ただ、喉で異物感を訴え続ける。

「てめーにゃ、関係ねぇ!!!!」

 メイの飲み込みがうまくいくよりも早く、カイトが物凄い音量で怒鳴った。

 自分が怒鳴られたような錯覚にかられて、反射的に頭をかばってしまった。

 殴られるワケでもないというのに。

 それは、目の前の男も同じだったようである。

 物凄い音量に耳をやられたのか、顔を歪めて、それからまたカイトの方を振り返るのだ。

 また、メイに見える情報は背中だけになる。

「そんなに大声を出さなくても聞こえます…しかし、その動揺が私の言っていることの証明にも思えるのですが」

 しかし、その背中は怯む様子はない。

 カイトとどういう関係かは知らないが、敬語を使ってはいるものの、明確な立場の上下があるようには見えなかった。

 などと。

 悠長に、背中を眺めていられるハズがなかった。

 メイには、考えなければならないことがあったのだ。

 そう。

 さっきの男の言葉。

 そこまでして、早く帰らなければならない理由。

 まるでカイトが、途中で仕事を切り上げて帰ってきたかのような発言だった。

 残りを全部、この背中に押しつけてきたような。

 この女性。

 表現された言葉に、内心で首を傾げる。

 まるで自分のことのようだ――いや、自分以外に指している相手はいない。

 それは、間違いなかった。

 ということは。

 カイトは、メイのために早く帰ってきた。

 そういう結論になる。
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