冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 空気が止まったのが分かった。

 彼女の言葉の乱入に、男2人が空気まで止めてしまったのだ。

 まさか、入ってくるとは思わなかったようである。

 もしかしたら、自分は差し出がましいことをしているのかもしれない―― 一瞬そう思ったメイは怯みかけたが、せっかく振り絞った勇気は、幸い逃げてはいかなかった。

 背中が振り返る。

 眼鏡の中に、自分が映った。

「あの…違うんです…そういうんじゃないんです」

 しかし、いざ口を開けてみたら、ロクな言葉が出てこない。

 メイは、昨日の説明がうまく出来ないことに、そこで初めて気づいたのだ。

「あの…彼は…その、私を助けてくれたんです…ただそれだけで、他は何にもないんです、本当です!」

 言葉を探るようにしゃべり出すと、何とか納得させられそうな単語にぶつかる。

 ワラにもすがる気持ちで、その言葉に捕まって、彼女の言葉は滑り出す。

「だから、早く帰ってこられたのも、きっと別の理由だ…と…思い…ます」

 私のためじゃないです。
 そんな誤解で、ケンカしないでください。

 うまくつなげようとした言葉は途中で切れて、心の中だけで呟かれた。

 口をつぐむ。

 そんなコトはありえない。

 世の中は、本の中とは違うのだ。

 悪い魔法使いから助けてくれた男が、まったく無償で見返りも期待していないことなんてありえるハズがない。

 まだ、彼女はそれを申告されていないだけなのだ。

 この心にずっしりと残る借用書を、破れるワケもなかった。

 カイトはこともなげに破ったけれども、彼女は出来なかったのだ。

 でも、本当に破ってしまうなんて。

 法的拘束力を持っているそれを、彼は破った。
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