冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 信じられない。

 まだ――彼女は、カイトという男を全然知らないのである。

 借金のカタが何なのかも。

 それが分からない内は、いろんなものが精算出来るまでは――ここから出ていけないように思えた。

 出て行けと言われるまで。

 それを、もし言われたら。
 言われるかも。

 メイは、次に言う言葉も見つけられずに、黙りこくった。

 男が観察している視線だけが、身体の上に虫のように止まっている。

「出てけ…」

 カイトが唸るように言った。

 メイは、ビクッとしてしまう。

 いま、自分の想像した言葉を見透かされたような気がしたからだ。

 顔が上げられない。

 もし顔を上げて、視界のどこかに自分をさげすんで怒っているような目を見つけたら、そんなことになったら。

 メイはぎゅうっと目をつむった。


「出てけってんだろ!」


 カイトが、落雷のように怒鳴る。


 そんなの…そんなの。

 我慢出来ない涙が溢れてきた。

 苦しくて苦しくて、苦しい。

 もう、ここにはいられなかった。

 この空間にいることなど出来ない。

 彼の目を見てしまう前に。

「ありがと…ござい…した」

 ペコリ。

 それを言うのが、精一杯だった。

 メイはだっと駆け出す。

 部屋を飛び出した。

 そのまま、外に出ていけばいいのだ。

 彼女の荷物なんて、ここには何もないのだから。
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