冬うらら~猫と起爆スイッチ~
●28
「そう…だったんですか…」

 メイは言った。

 彼が、どうして自分にあんなによくしてくれたのか、ようやく理由を話してくれたのである。

 カイトも、彼女と同じ立場だったことがあったのだ。だから、その人への恩返しの代わりに助けてくれたのである。

 それは、ひどくメイを納得させた。

 昔を思い出したのだ。

 母親が死んだ時、彼女はまだ小学生だった。

 父親は仕事をしなければならない身で、母親のように娘に構うヒマはない。
 そういう時に、いつも面倒を見てくれたり、助けてくれたりしたのが近所の人たちで。

 夕食のお裾分けも、一緒に旅行に混ぜてもらったことも、熱を出した時に病院に連れていってくれたことも、メイはどれも覚えていたし、ずっと感謝していた。

 カイトも、それと同じ気持ちを味わったことがあるのだ。

 だから、彼女を助けたのである。

 同時に、かぁっと恥ずかしくなった。

 一瞬だって、彼に何かされると思って身構えた自分が恥ずかしかったのだ。

 女だから助けたワケではないのだ。
 それは、単なる偶然に過ぎなかった。

 本当のカイトは、というと。

 言葉の乱暴な足長おじさん。

 おじさんと言うには、余りに若い風貌だが。

 きっと。

 これまでも、彼女以外に他の人も助けてきたのだろう。

 そんな優しいカイトを捕まえて、何かされるとか、されないと変だとか、代償だとか裏だとかいろんなことを考えてしまった自分が、何とも浅ましく思えた。

「ばかやろ! 同情される言われなんかねぇ!」

 何を勘違いしたのか、カイトが怒鳴る。

 きっと、メイと同じ身の上だったということで、同情しているとでも思ったのだろう。

「……すみません」

 メイは、小さくなりながら言った。

 これまでのバカな自分の考えを見透かされているようで、もっと小さくなりたかった。

 だから、彼は言ったのだ。

 何もしねぇ、と。

 自分が、何かされるとビクビクばかりしていたから。

 安心させようとしてくれたのだ。

 こんなによくしてもらって、お金を返さなくてもいいとまで言うのだ。
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