冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 あ。

 メイは、いままでの自分の行動を思い出す。

 彼に何の説明もせずにここに走ってしまったのだ。

「ご、ごめんなさい…サラダを…」

 言い訳にもならないけれども、冷蔵庫から取り出したサラダを見せる。

「そうならそうと言え!」

 思い切り顔を歪めて、カイトは足音も荒くダイニングに戻りだした。

 同じ年齢くらいだろうが、彼はもしかしたら、自分のことを子供のように心配してくれているのかもしれない。

 まるで子供のよ――

 また泣き出したい自分がいた。もう、泣かなかったけれども。
 カイトは、女としての彼女には全然興味はなかったのだ。

 その事実は、ついさっき『好き』という自覚が生まれてしまったばかりのメイには、どうしたらいいか分からないほど重い材料だった。

 彼が、ますます素晴らしい心を持った人だということが分かって、『好き』が、もっともっと届かないところまで行ってしまったのである。

 こんな、どこから生まれたか分からない、昨日今日の付け焼き刃の恋じゃ、絶対に彼の目に触れさせられないのだ。

 もしも。

 いや、そんなことは出来ないだろうが、もしも万が一、彼にこの思いが伝わってしまったら。

 きっと彼に顔を顰められる。

 そして、拒絶される――『そういうつもりで助けたんじゃねー』と。

 絶対に。
 絶対に、この気持ちを外に出してはいけない、と。

 誰にも見えないところにしまって、カギをかけて、鎖をかけて、重石をつけて、深い海の底へ――サンゴがはえるくらいまでずっと、ずっと。

 そうして、カイトに出来る限りの恩返しをしよう。

 お金を彼が望んでいないというのなら、身の回りの世話くらいならできるかもしれない。

「何してんだ!」

 なかなかついてこない彼女に、また声が飛ぶ。

「あ、はい!」

 メイはサラダを持って小走りに駆けだした。

 幸せなんだわ…これは。

 彼女はそう思った。

 好きな彼の側で、たとえ想いを伝えられなくてもカイトの役に立てるなら、それできっと幸せだ、と。
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