冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 カチャカチャ。

 しかし、それを陶磁器の音が邪魔をする。

 ん?

 カイトは、音の方をみやった。

 メイが汚れた皿を重ねている。スプーンやフォークも上に乗せるのだ。

 じーっっっ。

 カイトは、観察をしていた。

 するとメイは立ち上がって、その皿を持って調理場の方に行こうとするのである。

 案の定、だ。

「すんな!」

 カイトの言葉は、『だるまさんがころんだ』よりも、威力があった。

 彼女は、ぴたーっと止まってしまったのだ。
 ガシャッと、持っていた皿が音を立てる。

 落とさなかったのは幸運だったか。

 彼の言葉は、メイを驚かせるために存在するらしい。

 それを言うなら、彼女の態度のどれもこれもが、カイトが望んでいるものではなかったが。

「え…でも、このままじゃ…」

 お皿を持ったまま顎だけが彼の方を向いて、そうして目が片付けさせて欲しいと訴えている。

「それは、おめーがやるこっちゃねぇ…ハルコが明日やる」

 置け。

 カイトは、訴えを受け入れなかった。

「でも、いまのうちの方が汚れが落ちるんですよ…明日の朝になったら…」

 洗剤のCMにでも出るつもりなのか、彼女はいま洗うことの有効性を彼に伝えようとする。

「おめーを家政婦として連れてきたんじゃねーって、何べん言ったら分かんだ!」

 そういうことを、彼女に強いたくないのだ。

 借金のことを忘れないから、メイは労働しようとしているのである。

 そう、カイトには思えた。

「あの…」

 でもまだ皿から手を離さない状態で、彼女は口ごもる。

「置け」

 カイトも強硬だった。

「でも…」

 メイは、まだ戸惑っている。

「でも、じゃねー!」

 カイトは、問答にイライラし始めていた。

 せっかく彼が楽な道に続くドアを開けているというのに、どうしてメイは歩いてこないのか。

「でも…汚れたお皿を片付けないと…私…眠れないんです!」

 言わなくちゃ!

 そういう決意の声と目が、ばっとカイトに向けられる。

 は?

 カイトは、目が点になった。
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