冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 寝るだけの家のため、ロクなヒマつぶしがない。

 この家には、テレビすらないのだ。
 シュウも持っていない。

 オーディオはあるが、ただ音楽を聞くだけの時間の過ごし方なんて、カイトの辞書にはない。

 それじゃあ仕事をすればいいのだが。

 カチャカチャ。

 皿の歌声が始まる。

 もっと耳障りだと思っていた。

 何か、魔法でもかけながら皿洗いをしているんではないかと思てしまう。

 壁一枚隔てられた状態では不安になって、カイトは立ち上がった。

 そうして、隣の部屋に続くドアのところに立つ。

 メイは、まるで鼻歌でも歌い出しそうな感じで、嬉しそうに皿を洗っていた。

 その横顔が、カイトの位置から見える。

 壁によりかかった。

 彼女を見る。

 カイトは、もう残りタイムのことは忘れていた。

 皿洗いが、そんなに楽しいのかよ。

 彼といた時とは、全然違う笑顔だ。

 あの、ランパブで見たほっとした時の笑顔とは、また違う笑顔。

 きっともっと、彼女はそれを隠している。

 内側にいっぱいしまいこんでいるのだ。

 なのに。

 カイトは見ていた。

 狂おしいほどに――悔しかった。
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